大動物獣医師(産業動物臨床獣医師)の仕事内容と年収について
Column
2024年8月15日

大動物獣医師、または産業動物臨床獣医師は、畜産農家の方々が大切に育てている家畜の健康を守るために日夜働いています。特に、牛、豚、馬、鶏等の健康管理や病気の予防・治療、飼育環境の管理に関わる重要な役割を果たしています。今回は、肉用牛を例に、産業動物臨床獣医師の仕事内容と年収について詳しく解説します。
大動物獣医師の仕事内容
1.繁殖管理とサポート
・発情と人工授精
牛の妊娠期間は約285日で、年に1回ほどのペースで子牛を産みます。発情の発見や人工授精のタイミングは重要で、発情終了後が授精適期とされています。獣医師は、発情の発見や人工授精を行います。
・妊娠鑑定
交配後、次の発情期になっても発情しないことで妊娠が確認されますが、獣医師による診断でより確実に妊娠を判定します。
・分娩サポート
分娩時にはさまざまなトラブルが発生する可能性があり、獣医師は適切な処置を行い、母牛と子牛の健康を守ります。
2.育成期の健康管理
・離乳
生後3か月頃から離乳が始まり、この段階では呼吸器や消化器の感染症にかかりやすいため、予防と治療が重要です。ワクチン接種プログラムの策定や実施も行います。
・衛生管理
家畜保健衛生所の獣医師が定期的に畜産農家を訪問し、飼育環境の衛生管理や感染症の予防指導を行います。
3.肥育期のサポート
・飼料設計
肥育牧場では、良い肉質を得るための飼料設計が重要です。獣医師は畜産農家と相談しながら、牛の成長や健康状態に合わせた最適な飼料の配合を行います。
4.診療と治療
・定期訪問と健康チェック
定期的に畜産農家を訪問し、牛の健康状態をチェックします。病気の早期発見と迅速な対応が求められます。
・高度な診断技術
従来の聴診器や触診、血液検査に加え、超音波やレントゲンなどの検査機器を用いてエビデンスに基づいた診療を行います。
5.産業動物の病気診断・予防
・感染症対策
産業動物は農家の経済活動に不可欠な存在であり、病気の予防は生産性を守るために極めて重要です。特に伝染力の強い病気が発生した場合、農場全体の動物を殺処分しなければならない法的義務があります。
・法律に基づく対応
家畜伝染病予防法に基づき、感染症が発生した場合の対応や予防策を講じます。一頭一頭の診断・治療を行う際には、群れ全体への影響を考慮しながら判断します。
大動物獣医師の年収
産業動物臨床獣医師の年収は、一般的な獣医師と比較して少し高い傾向があり、約400万円~600万円程度と言われています。多くの産業動物臨床獣医師は、各都道府県の農業共済組合(NOSAI)に勤務しています。
大動物獣医師のやりがいと魅力
1.畜産業の発展を支える
大動物獣医師は、畜産農家と二人三脚で家畜の健康を守る役割を担います。病気の予防や治療、繁殖のサポート、飼料の管理など、さまざまな業務を通じて畜産業の発展に貢献しています。
2.科学的アプローチ
科学的データを基にした診断と治療を行うことで、治療の効果を最大化し、畜産農家の生産性を向上させることができます。エビデンスに基づいた治療を提供することで、畜産農家からの信頼を得ています。
3.地域社会への貢献
地域の畜産農家を支援することで、地域社会全体の経済活動を支える重要な役割を果たしています。また、畜産農家の方々との信頼関係を築きながら、家畜の健康管理を行うことで、大きなやりがいを感じることができます。
法に則り、動物の命と向き合う
産業動物獣医師は動物の命を助ける仕事である一方、ときには命を奪う必要のある仕事です。例えば、軽度の病気にかかって治療した家畜が後に重篤な伝染病に罹患してしまった場合、自分が一度助けた命だとしても、これ以上被害を広げないために殺処分しなければなりません。
まとめ
大動物獣医師(産業動物臨床獣医師)は、畜産業の発展と家畜の健康を守るために不可欠な存在です。多岐にわたる業務を通じて、畜産農家と共に家畜のライフサイクルに寄り添いながら、科学的データに基づいた診療を行っています。興味がある方は、大動物獣医師としてのキャリアを目指してみてはいかがでしょうか。
この記事の監修者

大学卒業後、一般動物病院にて小動物臨床を経験し、アニコムへ入社。
ペットの病気の早期発見・予防を目標に、記事監修や相談ダイヤルなどの啓発事業に携わる。愛猫 茶太郎と暮らしている。